本記事では、ユーザビリティ(使いやすさ)の向上を目的とした「人間中心設計」の考え方を解説し、ユーザーを起点にシステムやサービスを設計するとはどういうことか、そのメリットや基本プロセス、実務で意識したいポイントを整理します。
1. 人間中心設計とは何か

この章では、人間中心設計とはどのような考え方なのかを押さえ、従来の「システム中心」の発想とどう違うのかを説明します。
人間中心設計の基本的な考え方
人間中心設計とは、その名の通り「使う人」を中心に据えてシステムやサービスを設計する考え方です。開発者や企業の都合だけで仕様を決めるのではなく、誰が・どのような状況で・どんな目的で使うのかを出発点にして設計を進めます。目的は、ユーザーが「迷わず・ストレスなく・安全に」使えるようにすることであり、最終的にはユーザビリティの向上につながります。
この考え方では、外観の美しさだけでなく「操作のわかりやすさ」や「誤操作しにくさ」なども重視されます。たとえば、ボタンの位置やラベルの表記、エラーメッセージの内容など、いわゆる細かい部分もすべて「人がどう感じるか」という視点で検討します。便利な機能をたくさん詰め込むよりも、ユーザーにとって本当に必要な機能を、シンプルで理解しやすい形で提供することが重要になります。
システム中心設計との違い
人間中心設計と対比されるのが「システム中心」の考え方です。システム中心設計では、技術的に実現しやすい構成や、開発側の都合を優先して設計が進みがちです。その結果、仕様としては正しいものの、画面遷移が複雑だったり、専門用語が多すぎたりして、利用者にとっては分かりにくいシステムになってしまうことがあります。
これに対して人間中心設計では、たとえば「ユーザーはこの業務を10分以内に終えたい」「パソコンに慣れていない人も使う」といった前提を大切にします。その前提に合わない機能や操作手順は、たとえ開発側としては都合がよくても見直しの対象になります。つまり、人間中心設計は「技術的に可能かどうか」だけでなく、「人にとってどうか」という観点で設計を評価するアプローチだと言えます。
2. ユーザビリティ向上と人間中心設計の関係

この章では、ユーザビリティとは何かを整理し、その向上に人間中心設計がどのように役立つのかを見ていきます。
ユーザビリティの意味と評価観点
ユーザビリティとは、一般に「あるユーザーが、ある状況で、ある目的を達成する際の、効率や満足度、誤りの少なさ」のような観点で評価される性質です。単に「見た目がきれい」というだけでなく、「目的の操作にすぐ辿り着けるか」「操作に時間がかかりすぎないか」「使ったあとにわかりやすかったと感じるか」など、総合的な使いやすさを意味します。
例えば、検索ボックスの位置がすぐ見つかるかどうか、ボタンが押しやすい大きさになっているか、エラー時のメッセージが具体的かどうかなどは、ユーザビリティに大きく影響します。ユーザビリティが低いシステムは、利用者が途中であきらめてしまったり、業務に余計な時間がかかったりする原因になります。そのため、人間中心設計では設計の初期段階からユーザビリティを意識し、評価と改善を繰り返していきます。
ユーザー参加とフィードバックの重要性
人間中心設計では、設計の途中段階から実際のユーザーに参加してもらうことが重視されます。開発者だけで画面案を作り込んでしまうと、利用者の現場感覚からズレたシステムになってしまうことがあるためです。ユーザーインタビューやアンケート、試作品(プロトタイプ)を実際に触ってもらうテストなどを通じて、利用者からのフィードバックを集めます。
こうしたフィードバックを反映して設計を修正していくことで、ユーザーの期待や業務の実態に合ったシステムに近づけていきます。ユーザー参加には時間や手間がかかりますが、その分、導入後の「使いづらい」「分かりにくい」といった不満を減らすことができ、結果として全体のコスト削減にもつながります。ユーザビリティの向上は、単に見た目を整えるだけではなく、ユーザーとの対話を通して達成されるものだと言えます。
3. 人間中心設計プロセスの流れ

この章では、人間中心設計でよく取り上げられるプロセスの流れを、簡単なステップに分けて解説します。
利用状況の把握と要求の明確化
人間中心設計の最初のステップは、「誰がどのような状況で使うのか」を理解することです。ここでは、利用者の属性(経験・スキル・年齢・役割など)や、利用する場所・時間帯、利用時の制約(作業時間の制限、片手しか使えない、騒がしい環境など)を把握していきます。こうした情報は、ユーザーインタビューや現場観察などを通じて集めます。
次に、その利用状況を踏まえてシステムに求められる要求を明確にします。例えば「入力作業は1件あたり1分以内で完了できること」「誤入力時には必ず確認メッセージを表示すること」といった形で、具体的な条件に落とし込んでいきます。この段階でユーザーと認識を合わせておくことで、後の工程で「思っていたシステムと違う」というギャップを減らすことができます。
試作・評価を繰り返す改善サイクル
要求が固まったら、画面遷移図やワイヤーフレーム、簡単な試作画面などを作成し、ユーザーに実際に触ってもらいます。この試作品は、見た目が完璧である必要はなく、操作の流れやボタン配置などを確認できれば十分です。ユーザーがどこで迷うのか、どの操作に時間がかかるのかを観察し、感想や意見をヒアリングします。
評価の結果を踏まえて設計を修正し、再び試作と評価を繰り返すことで、徐々にユーザビリティを高めていきます。このようなサイクルを複数回まわすことで、最終的にユーザーの要求に合ったシステムに近づきます。重要なのは、「一度作って終わり」ではなく、「試して直すこと」が前提になっている点です。人間中心設計では、この反復プロセスこそが品質向上の鍵となります。
4. 人間中心設計を実務に活かすポイント

この章では、人間中心設計の考え方を日常の業務やシステム開発プロジェクトで活かす際に、意識しておきたいポイントを紹介します。
画面設計・Webデザインで意識すること
画面設計やWebデザインで人間中心設計を取り入れるには、「ユーザーが最初に何をしたいか」を常に意識してレイアウトを考えることが重要です。たとえば、頻繁に利用する機能は目立つ位置に配置し、あまり使わない設定項目はメニューの奥にまとめるといった工夫が挙げられます。また、専門用語が多くなりそうな箇所には、説明文やヘルプへのリンクを用意し、初めての利用者でも迷わないようにします。
さらに、スマートフォン・タブレット・PCなど、さまざまな端末から利用されることを前提に、画面の大きさや操作方法の違いにも配慮します。ボタンをタップしやすい大きさにしたり、重要な情報が画面の下の方に隠れないようにしたりといった工夫は、まさに人間中心設計の具体的な実践例です。このような配慮の積み重ねが、結果としてユーザビリティの向上につながります。
組織として取り組むための工夫
人間中心設計を形だけのスローガンで終わらせないためには、組織としての仕組みづくりも重要です。例えば、新しいシステムを企画するときに、必ず現場担当者をメンバーに加えるルールを決めておくと、利用者の視点が自然と取り込まれます。また、リリース後も定期的にユーザーアンケートや問い合わせ内容を分析し、改善点を次の改修に反映するプロセスを整えておくとよいでしょう。
ITパスポート試験で学ぶ範囲としては、人間中心設計の詳細な手法までは問われないことが多いですが、「ユーザーを中心に据えて設計する」「評価と改善を繰り返す」といった基本的な姿勢を理解しておくことが大切です。実務でも、この視点を共有することで、開発者・企画担当・現場ユーザーが同じ方向を向きやすくなり、結果として使いやすいシステムを生み出しやすくなります。
まとめ
まず、人間中心設計は「ユーザーを中心に据えてシステムやサービスを設計する考え方」であり、その目的はユーザビリティの向上にあります。技術的にどれだけ高度であっても、ユーザーが使いこなせなければ価値は十分に発揮できません。利用状況の把握や要求の明確化を通じて、「誰のためのシステムか」を常に意識することが重要でした。
次に、人間中心設計では、ユーザー参加とフィードバックの活用、そして試作と評価の反復がポイントでした。実際に使う人の意見を取り入れながら改善を続けることで、初期の想定だけでは見えなかった問題点が浮かび上がり、より使いやすいシステムへと近づいていきます。これは、画面設計やWebデザインなど、身近な領域でもすぐに応用できる考え方です。
最後に、人間中心設計は特別な場面だけで使うものではなく、日常の業務改善や資料作成にも通じる姿勢だと言えます。「相手は何に困っているか」「どうすれば迷わずに扱えるか」を考えること自体が、人間中心の発想だからです。ITパスポート試験の学習を通じてこの考え方を身につけておくことで、システム開発に関わる場合はもちろん、さまざまな場面で「人に優しい仕組み」を作る力を伸ばしていくことができます。

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