マーケティングとは、「売るためのテクニック」だけではなく、どの市場で、どんなお客様に、どのような価値を届けるかを考え抜くための仕組みです。市場調査から製品計画・広告・販売促進、UXやCXといった顧客体験の設計、さらにブランド戦略や成長戦略まで、さまざまな考え方と分析手法が組み合わさって成り立っています。ここでは、マーケティングの基本的な考え方と情報活用のポイントを、代表的な用語とともに整理して解説します。
1. マーケティングの役割と市場理解

この章では、「市場を知ること」と「顧客に満足してもらうこと」という、マーケティングの出発点となる考え方を整理します。どれだけ優れた商品でも、お客様や市場を理解していなければ売上にはつながりません。
市場調査
市場調査は、どのようなお客様がいて、どんなニーズや不満を持っているのか、競合はどんな製品・サービスを出しているのかといった情報を集める活動です。アンケートやインタビュー、統計データの分析、競合店の観察など、さまざまな手法があります。
市場調査を行うことで、「そもそもその商品に需要があるのか」「どの価格帯なら受け入れられそうか」「どの販売チャネルが有効か」といった判断材料を得ることができます。感覚ではなくデータにもとづいて意思決定するための土台になるものだと考えるとよいです。
顧客満足
顧客満足とは、商品やサービスを利用したときに、顧客が「買ってよかった」「また利用したい」と感じる状態のことです。単に期待どおりであるだけでなく、期待を上回る体験をしてもらうことができれば、顧客満足はさらに高まります。
顧客満足が高いと、リピート購入や口コミによる紹介が増え、長期的な売上につながります。逆に、価格や品質、接客などのどこかに不満があると、離反や悪い評判につながりかねません。マーケティングでは、顧客満足を測定し、改善していくことが重要なテーマになります。
2. 顧客体験を設計する考え方

この章では、商品そのものだけでなく、顧客が出会ってから使い続けるまでの「体験全体」をどう設計するかという視点を紹介します。UXやCX、カスタマージャーニーマップは、そのためのキーワードです。
UX(User Experience)
UXはユーザー体験のことで、製品やサービスを使うときに得られる体験全体を指します。たとえば、アプリであれば画面の見やすさや操作のしやすさ、レスポンスの速さなどがUXを構成します。
UXが優れていると、ユーザーはストレスなく利用を続けやすくなり、結果として顧客満足やロイヤルティの向上につながります。逆に、操作が分かりづらかったり、エラーが多かったりすると、いくら機能が豊富でも離脱されてしまう可能性があります。
CX(Customer Experience)
CXは顧客体験のことで、UXよりも広い概念です。商品を知ったきっかけから、購入前の問い合わせ、購入手続き、アフターサービスまで、企業とのすべての接点における体験が含まれます。
たとえば、店舗スタッフの対応やコールセンターの印象、Webサイトのわかりやすさ、ポイントサービスの使いやすさなどもCXの一部です。CXを改善することで、顧客との関係性が深まり、長期的なファンづくりにつながります。
カスタマージャーニーマップ
カスタマージャーニーマップは、顧客が商品やサービスを認知してから購入・利用に至るまでの行動と感情の流れを時系列で図にしたものです。「どこで商品を知るのか」「比較検討では何に悩むのか」「購入の決め手は何か」といったポイントを整理します。
このマップを作ることで、「このタイミングで適切な情報が届いていない」「購入直前に不安が大きくなって離脱している」といった課題が見えやすくなり、改善策を検討しやすくなります。UXやCXの向上にも直結する重要なツールです。
3. 提供価値とプロモーション設計

この章では、どんな商品を、いくらで、どこで、どのように売るのかという「マーケティング・ミックス」と、顧客との接点づくりに関する用語をまとめて解説します。
4P・4C
4Pは、Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(プロモーション)の4つからマーケティング戦略を整理する考え方です。企業側の視点で、「どんな製品を、いくらで、どこで、どのように売るか」を検討します。
一方4Cは、Customer Value(顧客価値)、Cost(顧客にとってのコスト)、Convenience(利便性)、Communication(コミュニケーション)の4つで、顧客視点からマーケティングを捉え直したフレームワークです。4Pと4Cを両方意識することで、企業の都合だけでなく、顧客にとって本当に価値のある提案になっているかを確認できます。
販売・製品・仕入計画
販売・製品・仕入計画は、どの商品をどれくらい売るか、そのためにどれだけ仕入れ・生産するかを決める計画です。過去の販売実績や季節要因、キャンペーン予定などを考慮しながら、売上目標と在庫水準のバランスを取ることが求められます。
この計画が甘いと、在庫不足による機会損失や、在庫過多による値下げ・廃棄につながりかねません。マーケティング施策と連携しながら、現実的な計画を立てていくことが重要です。
広告
広告は、商品やサービスの存在や魅力を多くの人に知ってもらうための活動です。テレビ・新聞・雑誌・Web広告・SNS広告など、媒体は多様化しています。広告では、「誰に」「何を」「どのように」伝えるかを明確にし、ターゲットに合った媒体やメッセージを選ぶことが効果アップのポイントです。
近年は、単に認知を広げるだけでなく、Webサイトへのアクセスやアプリのインストール、ECサイトでの購入など、具体的な行動につなげることも重視されています。
販売促進
販売促進は、クーポン、ポイント、試供品、イベント、キャンペーンなど、顧客の「今買おう」という気持ちを高めるための施策です。広告が主に「知ってもらう」役割を担うのに対し、販売促進は「背中を押す」役割を果たすことが多いです。
ただし、割引などの短期的な施策に頼りすぎると、利益率の低下やブランドイメージの下落につながる可能性があります。顧客分析の結果を踏まえ、誰にどのような販売促進を行うかを慎重に設計することが大切です。
オムニチャネル
オムニチャネルは、実店舗・ECサイト・アプリ・SNSなど、複数の販売チャネルや接点を統合し、顧客がどのチャネルからでも同じように買い物できる状態を目指す考え方です。たとえば、「ネットで注文して店舗で受け取る」「店舗で在庫がなければECから自宅配送する」といった体験がこれに当たります。
チャネルを連携させることで、顧客は便利に買い物でき、企業側は顧客データを統合して分析しやすくなります。
オピニオンリーダー
オピニオンリーダーは、特定の分野で影響力を持ち、周囲の人の購買行動に影響を与える人のことです。SNS上のインフルエンサーや、その分野に詳しい専門家などが該当します。
マーケティングでは、オピニオンリーダーに商品を体験してもらい、その感想を発信してもらうことで、信頼感のある情報として多くの人に届けることを狙います。
4. 成長戦略とブランドづくり

この章では、長期的な視点から事業や製品の成長を考えるフレームワークと、ブランドの位置づけに関する用語を解説します。
アンゾフの成長マトリクス
アンゾフの成長マトリクスは、「製品」と「市場」を「既存」と「新規」に分け、4つの成長戦略を整理するフレームワークです。既存製品×既存市場の「市場浸透」、既存製品×新市場の「市場開拓」、新製品×既存市場の「製品開発」、新製品×新市場の「多角化」があります。
どの方向に成長を求めるのかによって、必要な投資やリスクが変わります。企業は、自社の強みや市場環境を踏まえて、どのパターンを選ぶかを検討します。
プロダクトライフサイクル
プロダクトライフサイクルは、製品が市場に登場してから消えるまでの流れを「導入期・成長期・成熟期・衰退期」の4段階で捉える考え方です。導入期は認知度を上げること、成長期はシェア拡大、成熟期は差別化と利益確保、衰退期は撤退や次の製品への切り替えなど、ステージごとに取るべき戦略が異なります。
自社の製品が今どの段階にあるのかを把握することで、広告や販売促進、価格戦略などの方向性を決めやすくなります。
ポジショニング
ポジショニングは、市場の中で自社の製品・サービスを「どのように位置づけるか」を決めることです。たとえば、「低価格だが必要十分な機能」「価格は高いが高品質で安心」といったイメージの違いがポジションの差です。
ポジショニングを明確にするには、競合との違いと、顧客が何を重視しているかを理解する必要があります。曖昧なポジションだと、顧客に「何が売りなのか」が伝わらず、選ばれにくくなってしまいます。
ブランド戦略
ブランド戦略は、自社や自社製品に対して、顧客にどのようなイメージや信頼を持ってもらうかを計画的に築いていく取り組みです。ロゴやデザインだけでなく、品質の一貫性や顧客対応、広告メッセージなども含めてブランドを形づくります。
強いブランドが確立されると、多少価格が高くても選んでもらえる、他社より優先的に検討してもらえるなどの効果が期待できます。長期的な競争優位の源泉として、ブランド戦略は非常に重要です。
5. データで読み解く顧客行動と販売促進

この章では、顧客データを活用して販売促進につなげる考え方を紹介します。特にRFM分析は、顧客分析の代表的な手法として押さえておきたいポイントです。
RFM分析
RFM分析は、顧客を3つの指標で分類していく手法です。RはRecency(最終購買日)、FはFrequency(購買頻度)、MはMonetary(累計購買金額)を表します。
- 最近購入したかどうか(R)
- どれくらいの頻度で購入しているか(F)
- どのくらいのお金を使っているか(M)
これらを組み合わせて顧客をグループ分けすることで、「優良顧客」「休眠しかけの顧客」「新規顧客」などを見分けることができます。それぞれに合わせたメール配信やクーポン、キャンペーンを実施することで、効率的な販売促進が可能になります。
顧客分析を題材とした販売促進
顧客分析を題材とした販売促進では、RFM分析をはじめとするデータ分析の結果をもとに、ターゲットを細かく分けてアプローチします。たとえば、頻繁に購入してくれる優良顧客には限定イベントや先行販売を案内し、最近購入が途絶えている顧客には再購入を促すクーポンを送る、といった使い分けです。
このように、すべての顧客に同じキャンペーンを行うのではなく、特性に合わせた販売促進を行うことで、無駄なコストを抑えつつ、反応率を高めることができます。マーケティングの情報活用の代表例として、押さえておきたい考え方です。
まとめ
この記事では、「マーケティングの基礎」として、市場調査から顧客体験の設計、4P・4C、各種フレームワーク、ブランド戦略、顧客分析と販売促進まで、代表的な用語をひと通り整理しました。
マーケティングは、
- 市場や顧客を理解すること(市場調査、顧客満足、UX・CX、カスタマージャーニーマップ)
- 提供価値と販売の仕組みを設計すること(4P・4C、販売・製品・仕入計画、広告、販売促進、オムニチャネル、オピニオンリーダー)
- 長期的な成長とブランドを描くこと(アンゾフの成長マトリクス、プロダクトライフサイクル、ポジショニング、ブランド戦略)
- データにもとづいて顧客との関係を深めること(RFM分析、顧客分析を題材とした販売促進)
といった複数の要素から成り立っています。
一つ一つの用語を暗記するだけでなく、「お客様によりよい価値を届けるために、情報をどう活用するか」という視点でつなげて理解すると、マーケティング全体のイメージがつかみやすくなります。


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