ネットショッピング、ポイントカード、会員登録、SNS…私たちは毎日のように自分の情報を差し出しています。こうした情報を安全に扱うための基本ルールを定めているのが「個人情報保護法」です。この記事では、どんな情報が保護の対象になるのか、どんな事業者にどんな義務があるのか、そして頻出用語の意味をまとめて解説します。
1. 個人情報保護法の基本枠組み

この章では、「そもそも何を守るのか」「誰が守る義務を負うのか」といった基本の枠組みを整理します。
個人情報とは何か(保護の対象)
個人情報とは、生存する個人に関する情報で、次のいずれかに当たるものを指します。
- 氏名・住所・電話番号・メールアドレスなど、その情報だけで特定の個人を識別できるもの
- 他の情報と照合することで個人を識別できるもの
- 「個人識別符号」を含むもの(これについては後の章で説明します)
ポイントは、「誰の情報か」がわかるかどうかです。氏名が書いていなくても、会員番号と購入履歴がセットになっていれば、その企業にとっては特定の顧客を指し示す情報になります。
個人情報取扱事業者とは
「個人情報取扱事業者」とは、業務として個人情報データベースなどを使って個人情報を扱う事業者のことです。会社だけでなく、個人事業主やNPOなども含まれます。
かつては「取り扱う個人情報が5,000人分以上」などの条件がありましたが、現在は基本的に個人情報を扱うほとんどすべての事業者が対象と考えられます。小さなネットショップやサロンなども、例外ではありません。
個人情報保護委員会とは
個人情報保護法の運用を監督する独立した機関が「個人情報保護委員会」です。事業者に対して報告を求めたり、指導や命令を行ったりする権限を持っています。
委員会はガイドラインを出して、企業がどのように個人情報を扱うべきかをわかりやすく示しています。実務で迷ったときに参考にされる重要な存在です。
事業者に課される主な義務
個人情報取扱事業者には、個人情報を適正に扱うための多くの義務が定められています。代表的なものは次の通りです。
- 利用目的の特定・通知・公表
- 目的外利用の禁止
- 適切な取得方法(だまし取りや不正な入手の禁止)
- 安全管理措置(漏えいや紛失、改ざんなどの防止)
- 従業者・委託先の監督
- 本人からの開示・訂正・利用停止などの請求への対応
- 個人データの第三者提供に関するルールの遵守
これらは「やっていたら望ましいこと」ではなく、法律による義務です。違反した場合には、個人情報保護委員会による指導や命令、場合によっては罰則の対象にもなります。
2. 個人情報の種類と特徴を押さえよう

この章では、個人情報の中でも重要なキーワードを一つずつ整理します。
個人識別符号
「個人識別符号」とは、それ自体が特定の個人を一意に識別できる記号や番号のことです。例えば、指紋データや顔認証用のデータ、旅券番号、運転免許証番号などが該当します。
これらは一度漏えいすると変更が難しく、悪用されると被害が長期化しやすいため、特に慎重な取り扱いが求められます。
要配慮個人情報
「要配慮個人情報」は、本人に不利益や差別が生じるおそれのある、特に機微性の高い情報です。典型的には、病歴・健康情報、思想・信条、労働組合への加盟、犯罪歴などが含まれます。
要配慮個人情報を取得する場合、原則として本人の同意が必要になるなど、通常の個人情報よりも厳しいルールが適用されます。企業としては、「これは要配慮個人情報に当たるか」を意識しながら、取り扱い方を検討する必要があります。
匿名加工情報
「匿名加工情報」とは、個人情報を特定の手順で加工して、誰の情報かがわからないようにしたデータです。閲覧しても特定の個人を識別できない状態にすることで、統計分析やマーケティングなどに活用しやすくする狙いがあります。
ただし、単に名前を消しただけでは不十分な場合があります。他の情報と組み合わせて個人が特定されないよう、再識別できないレベルまで加工することが求められます。また、匿名加工情報を扱う事業者には、利用目的の公表や安全管理など、専用のルールも定められています。
マイナンバー法との関係
「マイナンバー法」は、住民票を持つすべての人に割り振られる「個人番号(マイナンバー)」の利用方法や管理方法を定めた法律です。マイナンバーそのものは、個人識別符号の典型例であり、個人情報保護法と密接に関係しています。
マイナンバーは、利用できる事務が法律で厳しく限定されており、企業が独自の目的で自由に使うことはできません。漏えいした場合の罰則も重く、一般の個人情報より一段と厳格な管理が求められます。
3. 利用と提供のルール

この章では、個人情報を「どう使うか」「どこに渡すか」に関係する重要用語を説明します。
オプトイン
「オプトイン」とは、事前に本人からの明確な同意を得てから、個人情報を特定の目的に利用したり、第三者に提供したりする仕組みです。例えば、メールマガジンの配信で「配信を希望する」にチェックを入れてから登録するケースが典型的です。
要配慮個人情報の取得や、広告メールの送信など、本人への影響が大きい場面では、オプトインによる同意取得が求められます。
オプトアウト
「オプトアウト」は、事前に一定の事項を本人に通知・公表したうえで、本人が「やめてほしい」と申し出ない限りは、第三者提供などを行える仕組みです。
ただし、オプトアウトによる第三者提供には、提供先の範囲や停止請求への対応など、細かな条件が定められており、安易に使える方法ではありません。
現在は、個人情報保護法の改正を通じてオプトアウト規定が厳格化されており、多くの企業は慎重な運用を求められています。
第三者提供
「第三者提供」とは、個人情報取扱事業者が、自社以外の第三者に個人データを渡すことです。グループ会社間での共有や、業務提携先への提供などが例として挙げられます。
第三者提供を行う場合、原則として本人の同意が必要です。また、提供先や提供する項目、利用目的などを本人に分かりやすく示すこと、共同利用や委託の場合の扱いを明確にすることなど、多くのルールが設けられています。
「委託」は第三者提供には当たらないとされますが、その場合も委託先の監督義務があるため、「任せきりで責任はない」というわけにはいきません。
まとめ
最後に、個人情報保護法のポイントを整理します。
- 個人情報保護法は、個人情報を適切に扱うためのルールを定めた法律で、ほとんどすべての事業者が「個人情報取扱事業者」として義務を負います。
- 保護の対象となる個人情報には、個人識別符号や要配慮個人情報など、慎重な対応が必要な情報も含まれます。匿名加工情報のように、適切に加工すれば活用の幅が広がる仕組みもあります。
- 個人情報保護委員会がガイドラインや監督を担い、事業者には利用目的の特定、安全管理、本人からの請求への対応など多くの義務が課されています。
- オプトイン/オプトアウト、第三者提供のルールを踏まえ、「いつ本人の同意が必要か」「どこまでが適切な利用か」を意識することが重要です。
- マイナンバー法のように、特定の情報についてはさらに厳格な管理が求められる場合もあります。
データ活用が進むほど、個人情報の扱いはビジネスの信頼そのものに直結します。法律のポイントを押さえつつ、「自分の情報がこう扱われたら納得できるか?」という視点で、日々の実務を見直していくことが大切です。
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