インターネットや社内ネットワークに日常的に接続する今の社会では、「不正アクセス」をどう捉えるか、そしてそれを禁止する法律がどのような考え方で作られているのかを理解しておくことが欠かせません。不正アクセス禁止法は、ネットワーク社会の“秩序”を守るための重要な法律です。ここでは、不正アクセスとはどのような行為か、不正アクセスを防ぐために利用者や企業が何をすべきか、そして法律の基本的な考え方を整理していきます。
1. 不正アクセスとはどのような行為か

この章では、不正アクセスのイメージと、どのような行為が“不正”とみなされるのかを具体的に説明します。
他人のIDやパスワードを無断で使う行為
不正アクセスの代表的なイメージは、他人のIDやパスワードを勝手に使って、その人になりすましてログインする行為です。たとえば、同僚の机の上に書かれていたパスワードをこっそり覚えて社内システムに入ることや、家族のメールアドレスとパスワードを使ってメールをのぞき見る行為などが該当します。
本人から明確な許可を得ておらず、システム管理者の想定していない形でログインすれば、たとえ「ちょっと見てみただけ」という軽い気持ちであっても、不正アクセスとして問題になる可能性があります。
認証やアクセス制御をすり抜ける行為
ID・パスワードを盗むだけが不正アクセスではありません。本来は入れないはずの領域に入るために、技術的な仕組みを悪用して認証やアクセス制御を突破する行為も含まれます。パスワードを総当たりで試すプログラムを使ったり、脆弱性を突いてシステム内部に侵入したりするケースが典型例です。
ログイン画面を経由しないで直接ファイルにアクセスしたり、URLを改変して本来見えるはずのない情報を引き出したりする行為も、管理者が想定していないアクセス方法である場合には、不正アクセスと評価されることがあります。
「勝手に入らない」というルールを破ること
不正アクセスには、「許可されていない人は入ってはいけない」というルールを破る行為全般が含まれると考えると理解しやすくなります。鍵のかかった部屋に勝手に侵入するのが住居侵入になるのと同じように、アクセス制御されたコンピュータやネットワークに勝手に入り込むことが不正アクセスだというイメージです。
たとえ実際にデータを盗んでいなくても、「勝手に入った」という事実そのものが問題とされる点が重要です。
2. 不正アクセスを防ぐためにできること

この章では、不正アクセスを防ぐにはどうすべきかという観点から、利用者と組織それぞれに求められる対策の方向性をまとめます。
ID・パスワードを適切に管理する
まず最も基本的なのは、IDやパスワードをしっかり管理することです。他人に知られやすい単純なパスワードを避けること、複数のサービスで同じパスワードを使い回さないこと、紙に書いて机の上に放置しないことなど、日常的な注意が重要になります。
近年では、パスワードだけに頼らないために、ワンタイムパスワードや認証アプリ、ICカードなどを組み合わせた多要素認証も広く使われています。こうした仕組みを積極的に利用することで、不正アクセスのリスクを大きく下げることができます。
システム側の技術的対策を整える
利用者の心がけに加えて、システムを提供する側の技術的な対策も欠かせません。ログイン試行回数の制限やアカウントロック、ファイアウォールや侵入検知システムによる監視、暗号化通信の利用、アクセス権限の最小化など、複数の対策を組み合わせることが重要です。
不審なアクセスが続いていないかログを定期的に確認し、異常な挙動を早期に検知できるようにしておくと、被害の拡大を防ぎやすくなります。
利用者教育とルールづくり
どれだけ高度な仕組みを入れても、利用者が安易にパスワードを教えてしまったり、不審なリンクをクリックしたりすれば、不正アクセスのリスクは残ります。そのため、組織として情報セキュリティポリシーを定め、従業員に対して継続的な教育を行うことが大切です。
具体的には、IDやパスワードの貸し借り禁止、退職者や異動者のアカウント削除の徹底、外部からの問い合わせに応じて認証情報を教えないことなどを、ルールとして明文化し、定期的に周知することが望まれます。
3. 不正アクセス禁止法の基本的な考え方

この章では、不正アクセス禁止法がどのような考え方に基づいているのかを整理します。ITパスポート試験では、この法律の目的や禁止されている行為のイメージが問われることがあります。
法律の目的は「ネットワーク社会の信頼を守ること」
不正アクセス禁止法の大きな目的は、コンピュータやネットワークが安全に使える環境を守り、ネットワーク社会全体の信頼を維持することです。不正な侵入が横行すれば、オンラインサービスの利用を控える人が増え、経済活動や社会活動にも悪影響が出てしまいます。
そこでこの法律は、「アクセス制御を突破してコンピュータに入り込む行為」や「他人のID・パスワードなどを無断で使う行為」を違法とし、罰則を設けることで不正アクセスを抑止しようとしています。
どのような行為が法律で禁止されているか
不正アクセス禁止法では、許可されていないコンピュータに対して、アクセス制御を無視して利用する行為が禁止されています。他人のIDやパスワードを使ってログインする行為、アクセス権限のない領域に侵入する行為、脆弱性を悪用して内部に入り込む行為などが典型的な対象です。
さらに、実際に自分が不正アクセスを行わなくても、他人に不正アクセスさせる目的でIDやパスワードを譲り渡したり、公表したりする行為も問題になります。いわゆる「アカウントの売買」や、「ここに書いてあるパスワードを使うと他人のメールが読める」といった情報の提供などは、不正アクセスを助長する行為として、法律上の規制の対象になり得ます。
企業や利用者が意識すべきポイント
企業や組織の側から見ると、この法律は外部からの攻撃者だけでなく、内部の従業員の行為にも関係してきます。たとえば、退職者のアカウントをそのまま残しておき、元従業員が無断でログインした場合、その本人は不正アクセス行為を行ったことになります。同時に、組織にとっても管理不備というリスクが生じます。
また、利用者が「友だちだから」「家族だから」といった理由でIDやパスワードを安易に教えてしまうと、不正アクセスを手助けする行為につながる可能性があります。法律の存在を意識しながら、「自分の認証情報を自分で守る」ことが、社会全体の安全にも直結していると考えることが大切です。
まとめ
最後に、不正アクセス行為の禁止等に関する法律に関するポイントを振り返ります。
不正アクセスとは、本来許可されていない人や方法でコンピュータやネットワークに侵入する行為全般を指します。他人のIDやパスワードを勝手に使うことや、アクセス制御を突破して内部に入ることは、軽い気持ちであっても不正アクセスとなり得ます。
こうした行為を防ぐためには、利用者側のパスワード管理や多要素認証の利用、システム側の技術的な対策、そして組織としてのルールづくりと教育が欠かせません。不正アクセス禁止法は、これらの取り組みを支える枠組みとして、ネットワーク社会の信頼を守る役割を担っています。
日常のちょっとした行動が、法律に触れる不正アクセスにつながることもあります。自分の認証情報を大切に扱い、他人のシステムには「許可なく入らない」という基本を徹底することが、トラブルを避けるいちばんの近道だといえます。

-300x158.png)
コメント