企業活動や日常生活の中では、著作権や商標権など「法律で明文化された権利」だけでなく、裁判例を通じて認められてきた権利もあります。その代表例が「肖像権」と「パブリシティ権」です。これらは情報社会・SNS時代のビジネスや個人の活動にも深く関わってきます。ここでは、これらの“その他の権利”について、基本的な考え方と注意点をわかりやすく整理します。
1. その他の権利の全体像

この章では、「明文化された法律は存在しないが、判例によって認められた権利」という全体像を押さえます。
著作権法や商標法のように、条文として細かく定められている権利だけが、個人や企業を守っているわけではありません。社会の変化に合わせて、裁判所の判断(判例)を通じて認められてきた権利もあります。
「肖像権」や「パブリシティ権」はまさにその例で、法律の条文に“肖像権法”や“パブリシティ権法”のような形でまとまって書かれているわけではありませんが、多くの裁判例を通じて、その存在が認められてきました。
情報技術の発達により、誰もがスマートフォンで撮影し、SNSで簡単に発信できるようになった今、これらの権利を知らずに行動してしまうと、トラブルにつながるおそれがあります。そのため、IT関連の基礎知識として理解しておくことが重要になります。
2. 肖像権:勝手に撮られたり公開されたりしない権利

この章では、裁判例で認められてきた「肖像権」について説明します。
肖像権は、ざっくり言うと「自分の顔や姿を、勝手に撮影されたり、利用されたりしないようにコントロールする権利」です。法律の条文として「肖像権は○○である」と明記されているわけではありませんが、プライバシーの保護や人格権の一種として、裁判所がその存在を認めてきました。
たとえば、街中で特定の個人がはっきりわかる写真を無断で撮影し、それを広告ポスターやWebサイトに掲載した場合、その人の肖像権を侵害していると判断される可能性があります。
また、SNSに知人の写真を本人の許可なく投稿し、本人が不快に感じたり、社会的に不利益を受けたりした場合にも、問題が生じることがあります。
企業としては、以下のような場面で特に肖像権への配慮が必要になります。
- 社員や顧客が写っている写真を、会社のWebサイトやパンフレットに掲載する場合
- イベント会場の様子を撮影し、その写真や動画を広報に使う場合
- 店舗内の監視カメラ映像を、宣伝目的で利用したい場合 など
こうしたときには、写っている本人から事前に同意を得る、個人が特定できないように加工するなどの配慮が求められます。
3. パブリシティ権:有名人の「顧客を呼ぶ力」を守る権利

この章では、同じく判例を通じて認められてきた「パブリシティ権」について説明します。
パブリシティ権は、主に有名人が持つ「名前や顔、声、シルエットなどが、商品やサービスの販売に結びつく経済的な価値」を守る権利だと考えられています。こちらも専用の法律があるわけではなく、判例の積み重ねによって、「有名人の顧客吸引力を無断で利用することは不当である」と判断されるようになりました。
たとえば、以下のようなケースが問題になります。
- 有名人の写真や名前を、許可なく商品パッケージや広告に使用する
- 芸能人を連想させるイラストやコピーを使って、「あたかもその人が広告に協力しているかのように」見せかける
- スポーツ選手やキャラクターの人気を利用して、無断でグッズを販売する
これらは、その有名人が本来得られるはずだった広告料やライセンス料などの経済的利益を奪う行為とみなされる可能性があります。
企業がキャンペーンや広告でタレントやインフルエンサーのイメージを利用したい場合には、適切な契約を結び、権利者の許可を得ることが非常に重要です。
なお、パブリシティ権は、有名人だけではなく、特定のキャラクターやマスコット、スポーツチームなどにも関連して議論されることがあります。いずれの場合も、「その名前や姿を使うと売上や集客につながる」という点がポイントになります。
4. 判例で認められた権利を扱うときの実務的な注意点

この章では、「明文化された法律は存在しないが判例によって認められた権利」を、企業や個人がどのように扱うべきかを整理します。
肖像権やパブリシティ権は、法律の条文そのものではなく、具体的な事件に対する裁判所の判断を通じて形づくられてきました。そのため、ケースごとに判断が分かれることもあり、「ここから先は必ず違法」という明確な線引きが難しい場合もあります。
だからこそ、実務上は次のような考え方が重要になります。
- 他人の顔写真・姿・名前などを利用するときは、基本的に「本人または権利を管理している事務所・団体の許諾が必要」と考える
- 「宣伝・販売促進につながる利用」をする場合は、とくに慎重に判断する
- SNSであっても、公開範囲や影響力によっては企業広告と同じくらいのインパクトを持ちうることを意識する
- 不安な場合は、法務部門や専門家に相談する
また、「ネットに出ている画像だから自由に使ってよい」「撮影したのは自分だから自由に使える」と考えてしまいがちですが、それだけでは権利侵害を避けられません。写真や動画には、撮影者の著作権だけでなく、写っている人の肖像権・パブリシティ権が関係してくるためです。
ITに関わる仕事をする人はもちろん、SNSを使って情報発信を行うビジネスパーソンにとっても、これらの権利を尊重する姿勢が求められます。
まとめ
最後に、ここまでのポイントを整理します。
- 肖像権やパブリシティ権は、明文化された専用の法律があるわけではなく、判例を通じて存在が認められてきた権利です。
- 肖像権は、「自分の顔や姿を勝手に撮影・利用されないようにする権利」として理解され、プライバシーや人格の保護と深く結びついています。
- パブリシティ権は、有名人などの「名前や姿が持つ顧客吸引力・経済的価値」を守る権利として扱われ、広告や商品販売の場面で問題になることが多いです。
- 情報発信が容易になった現代では、企業も個人も、他人の肖像や名前を利用する際には十分な注意が必要であり、原則として本人や権利者の許諾を得ることが重要です。
こうした「その他の権利」は、法律の条文だけを読んでいても見えてこない部分ですが、実務では非常に重要な役割を果たしています。日頃から他人の権利を尊重し、迷ったら慎重に判断する姿勢を身につけておきましょう。
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